早産で生まれる赤ちゃんへの医療や、NICU(新生児集中治療管理室)の実態を市民に知ってもらおうと、神奈川県立こども医療センターのスタッフや患者
家族が12月20日「子ども達に笑顔を!―新生児医療応援シンポジウム」を開いた。シンポには、長男の閏哉(じゅんや)君が早産で生まれたことをきっかけ
に新生児医療の普及啓発活動にかかわるようになったプロ野球の村田修一選手(横浜ベイスターズ)も参加。「全国の皆さんにも子どもの医療のことを勉強して
ほしい。多くの人が関わる可能性が高いこと。今後もこういう活動を続けていきたい」と意気込みを語り、来年には新生児医療を支援するNPO法人を立ち上げ
る構想も明かした。 シンポでは、村田選手・絵美さん夫妻と、閏哉君の主治医・豊島勝昭同センター新生児科医長らとのトークショーのほか、新生児科医から
は、NICU病床の不足など横浜県内の周産期医療の現状が報告された。
シンポの中で村田選手は、「うちの子が小さく生まれなかったらこういう経験はしなかっただろうし、小児医療の勉強もしなかった。野球選手としての村田よ
り、父親としての村田の器が大きくなった。病院が足りない中で救ってもらって感謝している」と、豊島医師や看護師に感謝の気持ちを述べた。
村田選手夫妻の間には、妊娠23週の早産で生まれた、現在2歳になる男の子の閏哉(じゅんや)君がいる。閏哉君は、2006年2月に県内の病院で生まれ
てNICUに入院していたが、間もなく腸に穴が開く消化管穿孔を起こしたため、同センターに搬送された。大量輸血や強心剤の投与、腸の外科手術を受け、
73日間の人工呼吸を続けた。入院から約半年、在宅酸素が必要なこと以外は状態が安定したため退院した。現在は元気に走り回り、村田選手がヒットを打った
夜は、「一緒にお茶を持って乾杯してくれる」(村田選手)ようになった。来年には幼稚園に入園する。
村田選手は今年からプライベートで、新生児医療の普及啓発活動などを始めることを表明している。今年7月には子どもの入院などでNICUにかかわったこ
とのある家族とNICUスタッフを野球観戦に招待。先日はサンタの格好をしてNICUを訪れ、寄付金を贈るとともに、患者や家族を激励した。野球観戦への
招待については、「(普段野球を)見たくても見られない子もいる。喜んでもらえたので招待してよかった。自分が現役でやっている間は観戦招待を続けていき
たい」と、意気込みを語った。
豊島医師は、「家族のことを考えていくのは医療者だけでなく、家族同士でもある。村田選手が野球選手でもできることとして、こうして考えてもらえることはありがたい」と語った。
また、記者団の取材に対し、NICUに入る家族間の情報共有など、新生児医療を側面的に支援するNPO法人を、来年にも豊島医師と共に立ち上げる意向を
表明。今季からシーズン中の本塁打で挙げた打点に応じて同センターに寄付するチャリティー活動を、来年以降も継続していくとした。
■搬送形体の工夫でNICUを効率的に活用
このほか、医療者側からは神奈川県内の新生児医療の実態が報告された。川滝元良同センター新生児科医長は、全国的に出生数が減る中で、2500グラム未
満で生まれる未熟児が増えていると説明した。こうした傾向を受け、神奈川県では出生数に対して必要なNICU病床数が絶対的に不足しており、慢性的に
NICUが満床状態になっていると指摘。同センターで行っている対応策として、重症の新生児の受け入れ要請があった場合、医師が依頼元の医療機関に往診に
行ってから搬送内容を決める「三角搬送」を紹介した。
医師が患者の状態を見た上で、病気が重く、同センターのベッドが空いている場合はそのまま搬送するが、思ったより状態が軽いか、空きベッドがない場合は
近隣で対応できる病院に搬送するというもの。同センターの三角搬送実施件数は年々増えており、呼吸障害や仮死状態のケースが多いという。
また、急性期の状態を脱した患者を、両親の自宅に近い地域にある二次救急病院に戻す「戻り搬送」や、搬送依頼元のマンパワー不足などを考慮して、同センターからスタッフが迎えに行く「迎え搬送」なども紹介した。
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